《MUMEI》

「・・・俺って、アリス失格だよな。」

「まあ、そうかもですね。兎は見失うし、道には迷うし、言葉使い悪いし、私より背が高いし、可愛くないし。」

後半は、理不尽な気がする。でも、どれも当たってるから何も言わない。
代わりに、少し俯いた。あーあ、俺、なんでアリスに生まれたんだろう。

「あれ?・・・もしかして、傷つかれました?」

焦ったように、兎が細い声をあげる。
うん。傷ついた。
俺は、繊細なアリスだぞ。

「え、そんな、泣かないでくださいよっ!」

いや、泣いてはないけど。ちらり、と視線を上げると兎は眉をひそめて、覗きこんできた。

「ね、ね、ごめんなさい。言い過ぎましたから、泣かないで!!」

泣きそうなのは、そっちだろう。あわあわ、わたわた、と必死な様子は・・・。その、何て言うか、あれだ。
可愛い。

「いいですよ!あなたがアリス、最高ですよ!えと、とっても綺麗な金髪ですし、肌も白いし、瞳だって素敵な色じゃないですか!手足も長いですし、ね?!ドジッ子だって、ポイント高いですよ!
いいじゃないですか!女装アリス!」

ああ!でも、可愛いアリスとのフワフワな日々!!さらば、青春の夢!!
そう叫ぶ兎は、やっぱり可愛い。そうだよ、なんでこいつがアリスじゃないんだ?
自然と、見惚れてしまう。

「うう!でもでも、あなたはかっこいいですよ!!」
「えっ!?」

「え?」

かっこいい、という言葉に顔が熱くなる。な、こんな可愛いやつに、かっこいいとか!

「あの・・・?お顔が、赤い・・・」

「え、あ!?べ、別に、かっこいいとか言われて、照れてるわけじゃないからな!!!ば、ばかっ!」

「あ、は、はい・・・。」

あ・・・。俺の馬鹿。
気まずい沈黙が、互いに流れる。
何か言わなくてはと、口を開けては閉める。
と、急に、どこからか優しいバイオリンの音が聞こえてきた。

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