《MUMEI》
《ビジネス》
.




−−−朝もやはその白いベールで、海の上まで柔らかく、ひそやかに覆っていた。





せりあがっては砕ける滑らかなブルーグリーンの波は、一定の高さを守っていて、波に乗るにはちょうど良さそうだった。


海に入るまえに、砂浜で準備運動していた拓哉は、なにかを思い出したように、あれ?と声をあげて振り向いた。


「お前、もしかして朝帰り?」


唐突な質問に、俺は苦笑して、なにをいまさら…と呟く。とぼけたヤツだな、と笑ってひとりごちたが、拓哉は、笑顔を見せなかった。

真剣な眼差しを俺に向け、尋ねる。


「…《ビジネス》?」


強張った声に、俺は頬を引き締める。拓哉は俺の顔色を見て、図星かよ…と眉をひそめた。


「まだ、あのオンナと続いてんの?」


いい加減にしろ、と言わんばかりだった。彼は呆れたように頭を振り、深いため息をつく。


「何しようとお前の勝手だけどさ、《ビジネス》だけは、辞めた方がいい…あのオンナ、かなりイカれてる」


刺のある言い方に、俺はなにも返せなかった。

それきり黙り込み、黙々とストレッチをする拓哉の背中を見つめて、



昔、聞いた、昌美の言葉を思い出していた。





−−−初めて、昌美と関係を持った夜、





彼女は枕元で、勘違いしないでね、と俺に囁いた。


「…これは《ビジネス》よ」


言っている意味が分からず、眉をひそめた俺に、昌美は艶っぽい仕種で微笑んだ。


「わたしは結婚して夫もいるし、今の安定した生活は、なによりも大切…いまさら年下の男のコとジュンアイするつもりはないの」


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