《MUMEI》 波乗り. −−−あれから2年。 俺はまだ昌美と、《ビジネス》という、愛人契約を結んでいる。 古い幼なじみや家族ですら知らない、その《ビジネス》のことを、 拓哉だけは、知っていたのだった。 ****** 充分身体をほぐした拓哉は、ボードを抱えて、颯爽と波打際へ歩み寄った。 躊躇うことなく海の中へ入り、ボードの上に身体を横たえる。 パドリングしながら沖へ進み、イルカのように身体を縮ませて小さな波をやり過ごし、 何度目かにやって来た、そこそこでかい波を見計らって、 ボードを浮かせて、テイクオフする。 波に乗り、その上を滑り出したボードの上で、 拓哉は両手を離し、低く腰を浮かせた。 その目は真剣、そのものだ。 彼はしっかりボードに立つと、 波をくぐり、陸の方へ滑り込んで来る。 やがて拓哉は浅い場所で、ボードから降り、濡れた前髪をかきあげて、 波打際にいる俺の顔を、笑顔で見上げた。 俺も、笑顔を作る。 「上手いじゃん。あんな小さい波で、よく滑ったな」 拓哉はサーフィンを初めて、3年弱。 年数は短いが、元々運動神経に優れていた彼は、この辺りで一番上手いと有名だった。 . 前へ |次へ |
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