《MUMEI》

.

素直に褒めると、拓哉は照れ臭そうに笑い、言った。


「武もやればいいのに。俺ひとりじゃ、さみしーじゃん」


その言葉に、俺は力無く首を振る。


「サーフィンは廃業したんだ。知ってるだろ?」


それだけ答えると、拓哉は納得しないような顔をしていたが、一度微かに頷くと、そのうち、再びボードに身体を乗せ、沖へとパドルしていく。


同じように波に乗り、なめらかに滑り、

大海を泳ぐ、優雅な魚のように。


俺も去年までは、ああやってなにも考えず、楽しく波と遊んでた。


俺は、ゆっくり《ラグーン》を見上げた。

古びたサーフショップは、どこか傾いて見える。店先にある、『スクール生募集』のブリキの看板はこの潮風にやられて、文字が読み取れない程、すっかり錆び付いていた。



−−−そう。



去年、





あのヒロトさんが、死ぬまでは。





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