《MUMEI》
失ったもの
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ヒロトさんは、《ラグーン》で働きながら、プロサーファーを目指していた。

年齢的には厳しかったが、

それでも持ち前のセンスと、努力の甲斐あって、

次から次へと、数々の大会を総なめにし、

いよいよ、プロライセンス獲得を目前にして、


突然、死んでしまった。


ある日、仲間達とともに、遠方の海へサーフィンに出掛けたヒロトさんが、

何度目かにゲットアウトした直後、

怪物みたいな、大きな波にさらわれて、

そのまま、いつまでたっても陸へ戻らなかったそうだ。


懸命な捜索の甲斐なく、
ヒロトさんの遺体は、あがらなかった。


季節はまだ春で、波は荒れていたし、水も冷たかったから、

身体がいうことをきかず、溺れてしまったのだろうと、


よくある水難事故として、警察によって簡単に片付けられた。


その訃報を聞き、


姉は、心を無くしたようだった。

小まめに休みを取り、東京からこの街へ帰って来ては、ヒロトさんといちゃついていた姉…。

それが嘘のように、パッタリと実家に寄り付かなくなった。

彼女の言い分は、いつも決まって、仕事が忙しいから、というものだったが、

ヒロトさんの死を、受け入れられずにいるようだった。


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