《MUMEI》 . −−−そして俺は、 生まれて初めて、海に対し、恐怖心を持った。 あんなに気候や波に敏感で、サーフィンも泳ぎも上手かったヒロトさんを、一瞬でさらっていった、果てしない海に。 ボードに乗り、パドルして海に出て、 そして、そのまま、陸に戻れなかったら。 冷たい海に抱かれて、引きずり込まれて、 二度と、この青い空を見ることが出来なかったら。 そう思うと、吐き気がして、足がすくんで、 波打際から一歩も前に、進めなくなった。 拓哉をはじめ、たくさんのサーフィン仲間達が引き留めるのも聞かず、 俺はじきに、サーフィンを辞め、 それと同時に、《ラグーン》のバイトも辞めた。 夢中になれるものを無くし、時間を持て余した俺は 昌美との関係に溺れていった。 単なるヒマつぶしだったし、ストレスのはけ口にもなるし、金にもなる。こんな良い話、探したってどこにもない。 怠惰な俺は、欲望の波にどっぷりと引きずり込まれていった。 . 前へ |次へ |
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