《MUMEI》

.

「別にプロじゃなくて、趣味でやればいいだろ?みんなそうしてる」


取り合おうとしない俺に、拓哉は真面目な声で言った。


「ヒロトさんはプロを目指して、夢半ばでそれが実現出来なかった。仲間として、ヒロトさんの遺志は、誰かが継がなきゃならないと思うんだ」


拓哉はため息をつく。


「みんな、『プロなんて…』って逃げ腰で、俺の話をまともに聞いてくれない…武だって、才能あるのにさっさとサーフィン辞めちゃうし。誰もやらないなら、俺がやる」


迷いのない言葉に、俺は黙り込んだ。

拓哉は俺の顔をまっすぐ見て、続けた。


「簡単じゃないなんて、百も承知だよ。でも、俺は諦めない。プロになれるまで、何度でも挑戦する」


そう言った拓哉の顔は、

今まで見てきた彼の表情の中で、

一番、凛々しかった。


俺はやっとのことで唇を動かし、俺は…と答えた。


「海にはもう、入らない。サーフィンは、二度としない。決めたんだ」


俺の言葉に、拓哉は少し寂しそうな顔をした。頼りない子供のような拓哉の瞳を見つめて、俺は、でも…と続けた。



「…出来る限りのサポートはしてやるよ。拓哉がプロに、なれるまで」



−−−お前が、そう望むなら。



俺の言葉に、

拓哉はようやく笑顔を見せた。





******

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫