《MUMEI》 . 俺は少し考えて、いいよ、と答えた。 「大学から帰ったら、直で行くよ」 俺の返事に拓哉は、了解、と言い、さらに、 「俺ン家、覚えてる?」 すかさず切り返されて、俺は黙った。 高校生の頃、何度か拓哉の家には行ったことがあるが、彼の家を訪ねるのは、久しぶりだった。 俺は記憶を手繰り寄せて、ああ…と頷く。 「覚えてるよ、そこまでボケてないって」 肩を竦めるジェスチャーをすると、拓哉は軽やかに笑った。 「そんじゃ、午後ね」 「ああ」 「今日はサンキュー」 「気にすんなよ。いまさらじゃん」 簡単に別れの挨拶を交わしてから、拓哉は《ラグーン》の裏手にあるシャワー室へ、俺は海岸沿いの通りへと、それぞれ向かって行った。 ****** 大学は、退屈だ。 高校と違ってかなり自由だが、それも最初の2ヶ月で飽きた。 提出物が増えたことと、授業の時間が長くなっただけで、やってることは、昔と大差ない。 今日の講義を全て終えると、俺はさっさと帰る支度を始めた。 そこに、 「矢代君!」 明るく声をかけられた。俺はゆっくり振り返る。 そこには、女の子がひとり、立っていた。 黒髪を肩下まで伸ばし、清楚な服装をした、真面目そうな、女の子。 . 前へ |次へ |
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