《MUMEI》

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顔は何度か見たことがある。確か大学のセミナーで、一緒になった。でも、あまり話したことがなく、名前がどうしても思い出せない。


「…あ、どうも」


俺が戸惑いながら適当に挨拶すると、彼女はクスクス笑った。


「名前、覚えてない?」


「その…セミナーで一緒だったよね?えーっと…」


ちょっと考えてみたが、やっぱり名前が分からない。

言いよどんでいると、彼女は俺を軽く睨む。


「ひどいなァ…わたしは覚えてるのに」


彼女の台詞にバツが悪くなりながらも、俺は、ごめん…と素直に謝る。彼女は、軽く息を吐いて、それから微笑んだ。


「寺嶋…寺嶋 若菜っていうの」


よろしくね、と、そよ風のように柔らかく呟く。俺は、よろしく、と繰り返した。

若菜は、ニッコリして、これから予定ある?と、いきなり尋ねてきた。


「セミナーのみんなで、お昼食べに行くんだけど、矢代君も一緒にどうかな?」


彼女の突然の提案に、俺は戸惑った。

セミナーの仲間とは取り立てて仲のいい友人はいなかったし、講義が終わったら拓哉の家に行く約束をしている。


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