《MUMEI》 電車に揺られて. 「悪いんだけど、今日は…」 ぼそぼそと聞き取りにくい声で断ると、若菜は、分かった!と、あっさり引き下がった。 「また、別の日に誘うね」 「ホントごめん」 「気にしないで。急に誘ったのが悪いのよ」 そう言って若菜は俺から離れて行った。 しばらく俺は、彼女の華奢な後ろ姿を眺めていたが、かばんを肩にかけ、講義室から出て行った。 ****** 拓哉の家は、海から少しだけ離れた小高い丘の上にあった。 地元の駅に着くと、俺は、小さな私鉄に乗り換える。 2両編成のレトロな電車は、観光スポットとして人気があり、平日にも関わらず、車内は多少賑わっていた。あちこちから乗客達の話し声が聞こえてくる。 狭い路地裏のような線路を、大きく身体を揺らしながら、電車は進んで行く。 浜に近い駅に着くと、たくさんの乗客が降りて、一気に車内は閑散とした。 静かになった電車内で、俺はぼんやり海を眺めた。 太陽の光に反射して、青い海がキラキラと白く輝いていた。 その波の中で、数名のサーファーらしき人影が浮かんでいる。 . 前へ |次へ |
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