《MUMEI》 . −−−今でも海は、好きだった。 ああやって、波に乗りたいと、思う気持ちも、残っている。 けれど、 やっぱり、怖かった。 あの広い海のどこかで、ヒロトさんがまだ、漂っているかもしれないと思うと、 どうしても、心がブレてしまう……。 目的の駅で降り、無人の改札を出ると、ツンとした潮の香りが俺を出迎えた。遠くから微かに、唸り声のような海鳴りも聞こえる。 海から離れているのに、やっぱり海の気配を感じた。 海の存在を強く感じながら、 俺は、ゆっくりと丘へ向かって歩き出した。 ****** 駅から丘を登り、程なくして閑静な住宅街に入る。 懐かしい道を辿りながら、俺は遠い昔に思いを馳せた。 −−−まだ、高校生だった頃、 拓哉が初めて、自分の家に俺を招いてくれた。 さんざん海で遊んだ後だったから、すっかり日が暮れていた。 「俺ン家、来ない?」 今日誘ったみたいに、拓哉は気軽にそう言った。 . 前へ |次へ |
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