《MUMEI》

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俺は、この時間だと家族がいるだろうから、と遠慮したのだが、彼は首を振った。


「母さん、仕事で遅くなるって言ってたから」


「でも、親父さんとか帰って来たら悪いしさ〜」


俺がそう言うと、拓哉は少し、寂しそうな顔をして黙り込んだ。

少し間を置いて、

淡く笑う。


「親父、いないよ。離婚したもん」


言ってなかったっけ?と、軽い調子で続けた。あえて、そういう風に言っているようにも聞こえた。

俺は、ビックリして言葉を無くした。

拓哉の両親が離婚していたなんて、今まで聞いたことがなかった。

戸惑った俺は、悪い…と呟くと、拓哉は笑い飛ばした。

そうして、

その経緯を話しはじめた。


「小さい頃から、俺の親、仲悪くてさー。いっつもケンカしてんの…で、この前、離婚して、そんで母さんは俺を引き取って、東京から出て、この地元に帰って来たんだよ。ばーちゃんの家が、あったからさ、とりあえず…って感じで」


軽い言葉に聞こえるような声だった。

俺は黙り込んだ。返す言葉が見つからなかった。


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