《MUMEI》
名前
「あの…うん。マジ、悪かったよ」

「お前かー!!高校生にもなって人様の部屋の窓に石を投げるとは何事だぁ!!」

「だってよー、こうしなきゃお前に会えねぇだろ?」

「そ、そりゃそうだけど…。あー、もういいや。で、何か用か?」

「えっと、昨日はありがとな」

「…は?」

「絆創膏」






悠一は、自分の頬に張られた絆創膏を指差しながら答えた。






「あぁ、あれか。別にいいよ。怪我させたのは僕だしね。……僕の方こそ、ありがと」

「あ?何が?」

「僕が怪我させた事、言わないでくれただろ」

「あー、あれは南方さんが、本当の事を言っても信じないと思ったから…。まさか、お嬢
様が鉄棒振り回しましたとは言えねぇしな」

「まぁ、確かに…」

「…あ、そんなことよりさ、名前、教えろよ。昨日聞きそびれたからさ」

「…そんなの知って、どうすんの?」

「はぁ?呼ぶに決まってんだろ?」

「名前で?」

「おう」

「"お嬢様"じゃなくて?」

「おう」

「何で?」

「…あのなぁ、名前呼ぶのに、理由なんて要らねぇだろ。それとも、呼んじゃ悪いかよ」

「いや、そうじゃないけど…」






誰かに…兄以外に名前で呼ばれた事なんてなかった。先生も友達も、会う人は全員僕を"お嬢様"としか呼ばない。

だから、僕を名前で呼ぶことに疑問を感じるのは、当然なんだ






「あー、もう。早く教えろよ」






悠一は、小さな子供のように頬を膨らませている。




……しょうがないな。

教えてあげますか。






「僕は梨央。"桜城 梨央"だよ」

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