《MUMEI》

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そのひとは、目の前にある拓哉の家の脇から、ひょっこり顔を覗かせていた。


年上の、女性だった。
俺の母親と、同じくらいか、もしくは少し下か…。


ウェーブをかけている長い髪の毛は、きれいな栗色で、

線の細い身体に纏っているのは、白いTシャツに、ライトブルーのデニム、足元はスニーカーというラフな出で立ち。
そして何故か、泥がついた軍手を両手にはめている。


何より気になったのは、


化粧っけのない、ほっそりとした面長の、その整った顔立ちは、


どことなく、拓哉に似ていたことだった。


彼女は俺の姿を見つめ、不思議そうな顔をした。軍手を取りながら、警戒しているのか、曖昧に笑ってみせる。


「ウチに、なにかご用ですか?」


そう尋ねられて、ようやく気づいた。


おそらく彼女は、拓哉の母親なのだ。


今までに、何度か拓哉の家を訪ねたことはあるが、拓哉の母親に会ったことはなかった。

俺が訪ねたときは、いつも仕事か何かで留守にしていて、家にいたことがなかったから。


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