《MUMEI》

.

拓哉の母親の出現に、戸惑った俺は、ドギマギしながら言葉をつむぐ。


「あの、俺、拓哉の…拓哉君のトモダチで、えっと…今日、ここに来るようにって、約束してたんですけど」


早口でそうまくし立てると、彼女は一瞬、キョトンとして、拓哉のお友達?と繰り返した後、

突然、パッと表情を明るくした。


「もしかして、あなた、タケル君?」


俺はビックリして黙り込んだ。

何故、俺の名前を知っているのだろう。

驚いている俺をよそに、彼女は門までやって来て、俺の前に立った。

門扉越しに向かい合って、

彼女は、ふんわり柔らかく微笑む。


「拓哉から、いつも話は聞いてるわ。タケル君っていう、とても仲の良いお友達がいるんだって」


言いながら、どうぞ入って、と彼女は門扉を大きく開いた。

俺は、はぁ…と曖昧に頷きつつ、門をくぐる。

彼女は玄関の鍵を開け、引き戸を開いてから、俺を振り返った。


「あの子、今、コンビニに行ってるの。すぐに戻ると思うから、中で待ってて」


そうして、人懐っこい笑顔を浮かべるのだ。

その表情を目の当たりにして、

俺の胸が、キリキリと切なく軋む。


.

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫