《MUMEI》 . それから俺の顔を見て、気まずそうに彼女を指差す。 「…これ、俺の母親。今日、たまたま仕事休みでさ」 素っ気ない拓哉の紹介の後、 彼女は満面の笑顔を浮かべて、俺を見つめる。 「はじめまして。拓哉がお世話になってます」 そう言って、彼女は深々と頭を下げる。 つられて俺も軽く会釈した。 拓哉は照れ臭かったのか、そんな母親に眉をひそめた。 「余計なことはいいから、さっさと行けよ。土いじり終わったのかよ?」 つれない息子の態度に、彼女は子供っぽく頬を膨らませる。 「ガーデニング!土いじりって言わないでって言ってるでしょ!」 「やってることは同じだろ?」 「イヤー!なんか、聞こえが悪いじゃない!」 「大して変わらねーって」 しばらくそうやって、ギャアギャアと言い合っていたのだが、拓哉が先に、どーでもいいよ、と投げやった。 再び俺を見て、部屋行こうぜ、と声をかける。 俺は頷き、拓哉の母親へ会釈すると、 彼女はニッコリして、言った。 「ゆっくりしていってね」 その軽やかな抑揚が、 俺の鼓膜に、響き渡って、 妙に、胸がざわめいた……。 ****** 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |