《MUMEI》

「……俺、監督に光の話聞いた。」

助手席で、光は夜景を眺めてた。


「最悪だったでしょう?昔の俺。伊武さんがくれたもの、まだ返しきれないのに……。」


「監督も感謝してた。」

その言葉で弾かれたように俺を見た。


「まさか。あの、自信家な人が?」


「その自信が崩れ落ちたときに、復活させたのは光だよ。
奥さんが亡くなったとき、上手く仕事が出来なかったとき、光は二回甦らせてくれたんだ……って。」

俺にも分かる。
光の眩しい才に救われる。理屈じゃ説明出来ない、もっと光を見ていたいと思ってしまう。

光は明るいとこまで照らし続けてくれる。
監督も俺と同族だ。

高遠光のファン。


「俺、ちょっと嫌われてるかと思ってた。糞餓鬼だし、表現力もまだまだだったのにあの傑作に主演しちゃったし……。」


「光は持ちうる最高の力で挑んだじゃないか。
自惚れて、自分を愛してやってよ。
きっと、明日の試写会ではお前にみんな、夢中だろうから、よく見渡してみろよ。監督がコネで光を選んだんじゃないって分かるだろうからさ。」

そうだ、失敗なんて有り得ない。
確信している。


「俺って、国雄が居ないと駄目な体だね……。きっと、一人だったら焼香も無理だった。」


「俺も惰性でホストやってたかも。」


「それは別にいいよ、似合ってたじゃんNo.1ホスト。」

喪服で危うくいちゃつきそうになった。


「そうそう、伊武さんが光に足りなかった訴えるような色気が出て来てたって褒めてた。」


「……課題クリアーだ。
俺はいつも自己主張ばかりで、煩いって言われてたから。多分、国雄に会ってから色んな視野が広げられたから演技の幅も広がったのかも。」

確かに、俺達は一人では絶対やらなかったことを二人で達成していった。


「……光って恋愛で変わるタイプだったんだ。」

それは俺も同じか。


「そうそう。国雄さんを愛しとりますよ〜。」


「はい、ありがとうございますよ〜。」

光の不意の告白にも慣れっこになってきた。

愛しき君よ、光の次の映画だ。
……監督が唯一、奥さんの脚本に反したのがこのタイトルだった。
胸ポケットには密かに監督に渡された煙草を一本、忍ばせている。その時、大切なものを受け取ったようだ。

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