《MUMEI》 . 田舎町には似合わない、幻想的なその庭を、ぼんやり眺めていた俺に、拓哉は、すげーだろ?と笑う。 「その庭、母さんがひとりで造ったんだ」 俺はビックリして、拓哉の方を振り返る。 「ひとりで!?」 素っ頓狂な俺の声に、拓哉は深々と頷く。 「花屋のコネ使って、植物を安く仕入れて、ヒマ見つけてはせっせと造ってた」 −−−拓哉の話によれば、 イギリスのサーシャなんとかっていう、女性の童話作家がいて、彼女はガードナーとしても有名人らしく、たくさんの関連本を出版している。 拓哉の母親はその本の影響で、ガーデニングを始めたそうだ。 「元々花が好きで、しかも凝り性だから限度を知らないんだ。冬はもっと凄いんだぜ。庭中、電飾だらけ。近所でも有名なんだよ」 そこまで拓哉が話したとき、 庭から物音が聞こえて、俺は再び窓の外を見る。 俺が庭に目をやると、ちょうど拓哉の母親が中央の花壇で雑草を抜き取っていた。 彼女は白いTシャツを土で汚しながら、脇目も振らず、一心に掃除をしている。 彼女の華奢な背中を見つめていると、 俺は、何故か落ち着かなくなった…。 いても立ってもいられないような、 何かを叫びたくなるような、 そんな、ざわざわした気持ちが胸に溢れた。 . 前へ |次へ |
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