《MUMEI》
ターゲット
.

俺は、すげー…と譫言のように呟いた。


「お前の母さん、アーティストだったんだ」


俺の台詞に、拓哉は苦笑して、言い過ぎ、と首を振る。


「あれはただの、パラノイア。すげーんだよ。庭の花を一本摘んだだけで、すぐばれるんだぜ」


拓哉の声を聞きながら、

俺はまだ、庭にいる彼女を見つめていた。


彼女は時折、額の汗を腕で拭い、それでも庭の手入れをやめることはしなかった。


窓から、彼女の姿をひたすらに眺めている俺に、拓哉は痺れを切らしたように、そんなことよりさー、と話題を変える。


「ボードなんだけど、フィンとか、どうかなー?やっぱりいじった方がいいかなー?」


ひとりでブツブツと呟きだした親友の方を、俺は振り返り、

それから、本当に知りたかったことを、小さな声で尋ねた。


「…お前の母さんの名前、教えて」





******





−−−小相澤 響子。





それが、彼女の名前だった。



自分の母親の名前を尋ねたことに、拓哉は訝しんだようだったが、あっさり教えてくれた。


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