《MUMEI》
・・・・
 たいしてファースの異能を目の当たりにしたと言うのに、対峙する兵士は一向に動く気配はなく、深く被ったヘルメットが邪魔をして顔を見ることができない。
 何も仕掛けてこない兵士に違和感を感じたが、ただ一人になったことに臆して身体が動かないだけなのだろうとファースは高をくくった。あれほどの不可解な力を目の当たりにして、勇敢に挑んで来れる一般兵はそうはいないだろう。
 きっと笑っている膝を抑えるのが精いっぱいで、動くことが出来ないでいるのだろうと考えた。
 「・・・今度こそ、逃がさないぞ」
 俯いていた兵士が、一言呟いた。それを聞きとることが出来なかったファースは口を動かしたことに眉をひそめる。兵士はゆっくりとした動作でヘルメットに手をかけると外し、ヘルメットを地面へ放り投げた。

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