《MUMEI》
プロローグ
世界の外は永遠の奈落。
その事実を少年が知ったのは、砕け散っていく彼の世界から、その外へ弾き出された瞬間のことだった。
奈落の闇に墜ちながら、少年は混乱を隠しきれない。
「なぜ、ボクの世界が……永遠の楽園が、砕けるんだ?」
その呟きに答えるように、崩れ続ける彼の世界の端に足を掛け、男が言った。
「冥土の土産に教えてやろう、我が宿敵“だった”餓鬼。誰も信じなくなったからさ! 永遠の楽園なんぞ存在しないことを! ネバーランドなんざ、どこにもないってことがな!」
男は墜ちていく少年を勝ち誇った顔で見下ろし、嫌な笑いを木霊させながら、高らかに宣言した。
「大人だ! この世には、もう大人しかいない! おまえの仲間の子供なんざ、一人もいやしないのさ! 子供はもう、死んだんだよ、全員な!」
「死ん、だ……?」
「そうだ、死んだんだ! そしてお前も死ぬ、他の子供と同じように。子供たちの象徴である、お前も消える! 最初からなかったかのように!」
片目に眼帯を掛け、片手に手の代わりに鉤爪を取り付けている、海賊風のいでたちの男は叫ぶ。
そして、両手を高く振り上げて、勝利を宣言した。
「さようならだ、我が宿敵! さようならだ、永遠の楽園! 人間の世界は我ら大人のものだ! 未来永劫、俺ら大人の玩具だ!」
そう言って高笑いを挙げ続ける男。
その笑い声を聞きながら、少年の意識は混濁していった。
それは眠りにつくかのような、ある意味安らかな感覚。
もうすぐ奈落の底につく。
そう思った時、少年の意識は完全に途絶えた……。
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