《MUMEI》
待ってるから
.

今日は海が荒れていて、日も暮れ始めていたから、浜には誰もいなかった。

この分だと《ラグーン》も、どヒマだろう。


「お疲れさまでーす!!」


建て付けの悪いドアを勢いよく開いて、俺は大きな声を出した。



予想通り、店内には客がおらず、

手持ち無沙汰にしていたバイト達が、俺の姿を見て、あっ!と声をあげた。


「矢代〜!!」


「なんだよ、お前。久しぶりじゃん!」


一斉に取り囲まれて、声をかけられる。


「全然、変わらねーなァ!大学楽しい??」


「カワイイ彼女は出来たのかよ?」


相変わらずの仲間に、俺の顔も穏やかになる。

《ラグーン》の、顔なじみのバイト仲間のヤツらは、

俺がバイトを辞めた後でも、こうして暖かく歓迎してくれるのだ。

だから、とても居心地がいい。


彼らと他愛ない話をしながら、キョロキョロと店内を見回し、

そこで、ようやく拓哉の姿がないことに気づいた。


「…拓哉は?」


俺が尋ねると仲間のひとりが、今日は休みだよ、と答えた。


「たぶん、学校じゃん?昨日、『単位ヤベー!!』とか言ってたし」


すると、ほかのヤツが話に乗ってきて、


「電話した方が早いんじゃないの?」


と、提案してきた。


.

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