《MUMEI》 . 俺はポケットから携帯を取り出し、拓哉に電話しようと思ったが、 ふと、あることを思い立ち、 再び、携帯をしまった。 それを見て、バイト達はキョトンとする。 「電話しねーの?」 そう尋ねられて、俺は頷く。 「また今度にする。別に急ぎじゃないし」 それに、若菜をこの浜へ連れて来たら、拓哉でなくても、サーフィンに興じているヤツなんて、ごろごろいるし。 サーファーを生で見られたら、それで納得するのだろう。 俺の返事に、バイトは、ふぅん…と興味なさそうに唸ってから、何かを思い出したように顔を輝かせた。 「この前さ、俺、エアリアルやろーとして失敗してー」 『エアリアル』とは波に乗っている状態から、空中に飛び出し、再び着水するというサーフィンの技だ。 . 前へ |次へ |
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