《MUMEI》 . 彼は、見てよ、この痣!と言いながら、Tシャツの袖をまくりあげて、逞しい腕をみせた。 健康的に日焼けした肌に、痛々しい痣の痕がくっきりと残っていた。 「ちょー痛くて、死ぬかと思った〜!!」 そうして呑気に笑うのだ。その隣で話を聞いていた別のバイトが、小相澤のマネしようとするからだ、と苦言した。 「完璧に、エアリアルが出来るの、ここらじゃ矢代と小相澤ぐらいだしな」 仲間に馬鹿にされて、彼は、小相澤より俺の方がキャリア長いのに…と、ぼやく。 そんな彼を放って置いて、バイトのひとりが俺に言った。 「そろそろ、戻ってこいよ。ブランク長いと、勘が鈍るぞ。矢代の取り柄は、サーフィンだけなんだしさ」 いきなり話を振られて、俺は戸惑った。もう辞めたんだよ…と喘ぐように言うと、彼は首を振った。 「いつまでグダグダしてるつもりだよ。ヒロトさんの事は俺もビビったけど、それとこれとは話が違うだろ?」 嫌な方へ話が向かったので、俺は、用事があるから…と言い残し、そそくさと店を出ようとした。 その背中に、 大きな声で、最後に投げかけられる。 「お前が戻って来るの、待ってるからな!」 その呼びかけにも答えず、 俺はみんなの想いを拒絶するように、バタンとドアを閉じた。 ****** 前へ |次へ |
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