《MUMEI》

 「……色んな物がある」
帰り道
買いモノをして帰るとの言葉通り、篠原達の姿は近所のスーパーにあった
その中にあるもの全てがhじめて見るものばかりの様で
ショコラは頻りに首を巡らせ、周りばかり眺める
「今晩、何が食いたい?」
様々な材料を見ながら篠原は問うて
だが、ヒトの食べ物に余り詳しくないのか
ショコラは並ぶ食材を前に首を傾げるばかりだ
「……俺が決めたモンでいいか?」
見るに見兼ねて篠原が口を出せば
ショコラの顔が瞬間綻んだ
そのショコラの笑い顔に弱い篠原は、そんな自身に苦笑を浮かべながら食材を様々選んでいく
夕食の材料、飲み物、そして菓子
丁度、チョコレートが陳列されている処へと差し掛かり
一つ一つそれらを眺めながら
篠原が不意にショコラへと問う事をする
「な、ショコラ。ちょっと聞いていいか?」
「何?」
「チョコレート・フェアリーってのはこういうチョコ一つ一つに入ってるもんなのか?」
手に取って見せてくる篠原へ、ショコラは頷いて返し
「チョコレート・フェアリーは全部のチョコにいるの」
小さなチョコレート一つ一つにも、と大袋に入っているチョコレートを篠原へ
チョコが大量に入ったソレを眺めながら
「だとしたらかなりの数居るんだな」
聞かされた話に僅かに驚きながら、篠原はそのチョコレートを買物カゴへ
選んだそれは、やはり無糖のチョコレートで
ショコラと出会う切っ掛けになったそれと同じチョコレート
ソレを選んで貰った事を何となく嬉しく感じた
「どうした?」
微かに笑う声を漏らしたショコラへと篠原は向いて直ると
ショコラはゆるり首を横へと振りながら、何でもないのだとだけ返す
ただ単純に、篠原は甘い物が苦手で普段から食べ慣れているそのチョコを取っただけ
だがそれでも
ショコラにしてみれば自分を必要としてくれているのだと感じ、嬉しい気分になる
「ショコラ。ほら、行くぞ」
買い物も終わり、ショコラへと買ったモノを見せながら手を差し出して
ソレを、ショコラはごく自然に取っていた
この手の中に自分のソレが当然の様に収まり
その事を嬉しいと思いながら篠原と共に店の外へ
出た矢先
どうしたのか、ショコラの脚が不意に止まる
「どうかしたか?」
彼女の見る先へ篠原も向いて見れば
その先には、物陰に隠れる様にして道の隅に座り込んでいる一人の少女の姿があった
暫くその様を眺め、そしてショコラはその少女の前へ
同じように膝を折り、顔を覗き込む
「……君は、Chocolate fairyかな?」
近く寄ってみれば、ふわり香るチョコレートの香り
その少女は、突然の声に驚きながらショコラを見上げ、そして頷いていた
「僕はショコラ。君は?」
名前尋ねてみれば、少女は蚊の鳴くような声でココア、と自身の名を名乗る
「ココア、君はこんな処で何をしてるの?」
徐々に肌寒さを感じる様になってきた秋の夕暮れに薄着のココア
何か訳ありなのか、とショコラの後ろから篠原がココアの様子を窺う
「……だ、誰?」
顔を見せた篠原にココアは驚く
怯えている様にも見える様に、ショコラは宥めるような笑みを浮かべながら
「この人は、恭弥。僕の、御主人さま」
「御、主人さま?あなたの?」
「そう。キミは?一人、なの?」
見えない主人に首を傾げながら問うショコラへ
ココアは頷いて見せる
「……御主人様、居ない。見つけに行かないと」
「どういう、事?」
本来、チョコレート・フェアリーは主と出会って初めて此処にある事ができる存在で
主人が不在、という状態にはならない筈なのに、と首を傾げてしまうショコラだ
「……お買いもの、してたら、私の御主人さま居なくなっちゃって。それで、私……」
詳しく聞く事をしてみれば要するに迷子で
篠原は苦笑を浮かべると、ココアを立たせてたる
「……探しに、行ってみるか」
「え?」
思わぬ篠原からの言葉に、ココアだけでなくショコラさえも驚き
そんな二人の頭を篠原は撫でてやりながら
「……ここで泣いてたって仕方ねぇだろ。店の中にまだいるんだろ?なら探した方が早いだろうしな」
軽く片眼を閉じて見せた
ココアは涙をにじませた目元を手の甲で拭うと、篠原の後に続き店の中へ
入るなりだった

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