《MUMEI》 「待てよ、じろー!」 折れそうな手首を必死に掴んでしまう。 「待たない!」 華奢な体を振り乱して抵抗する。 積雪する白の中、二人揉み合ううちに倒れ込んだ。 このまま、二人で宙に浮かべたら良かった。 大好きな二郎とふたりきりでいたい。けれど、冷たい雪が俺達の半身を埋めた。 「離して……もういい、俺、七生とは暮らせない。」 「俺と居たくないの?」 「その秤にかけるような言い方は嫌い……七生なら分かってくれるって信じていた、でも聞いてさえくれなかったよね……。」 えっ………………、もしかして俺が悪いの? 「ななお、一度だって、俺の話聞いてくれてた?」 な、な、な泣かせてしまった……! 「聞いてたよ?」 そんなに俺、悪いことしてたっけ? 「…グス、七生が、話すタイミングくれなかった、仕事の話だって煙たがって話させてくれなかった! 俺に隙さえあれば触ってくるくせに、肝心の心は通わないまま……そういうのはもう要らない。」 プライベートにまで仕事を持ち込んで欲しくなかったんだ、 休みだし、ゆっくり羽を伸ばしたかった。 「……俺、二郎の気持ち蔑ろにしてたのか? 確かにじろーが帰ってきたこと嬉しすぎて夢中になってた、じろーには失いたくないものがいっぱいあるんだろうけど、俺の中にはお前だけなんだもん……」 俺だって自分が馬鹿で駄目だって、わかってるんだ、ただ、どうしても二郎の前だと抑え切れない。 今だって本当はキスしたい……というか、気付いたらしていた。 たまに思う、 自分の幼さが、悔しい……。 もっと二郎と繋がっていたい……俺はそんなことばっかり考えていた。 だから、指輪なんて買ってしまっていた。 それは、自分の車に隠したままにしよう……二郎に渡すには残酷だ。 俺に縛り付けるようなものだから。 前へ |次へ |
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