《MUMEI》 . 拓哉の家には、明かりがついていた。 きっと、誰か家にいるのだろう。 俺は門の前に立ち尽くす。 その場で、中の様子を伺うために、耳を澄ませる。 話し声は、聞こえなかった。 不気味な程に、シン…と静まり返っている。 −−−拓哉は、帰っているだろうか。 −−−響子も、家にいるのだろうか。 様々な想いに駆られながら、俺は、インターホンを押す。 夜の静寂に、ブザーが鳴り響いた後、 玄関の引き戸のガラスに、人影が浮かび上がる。 ゆっくりと開かれた、そのドアの向こうから、 「……あら?」 普段着姿の、響子が現れた。 俺は、一気に緊張する。 強張った声で、こんばんは…と挨拶した。 「こんな時間にすみません」 素直に詫びると、彼女は顔を綻ばせ、いいえ、と呟き、 そうして、答える。 「どうしたの?拓哉にご用?」 何の疑問も持たず、そう返された。 俺は少し迷ったが、とりあえず頷くと、彼女は申し訳なさそうな顔をした。 「ごめんなさい。拓哉、まだ帰ってないの。今日は、『サークルの集まりがあるから遅くなる』って…もうすぐ帰って来るとは思うんだけど」 電話してみましょうか、と言った彼女に、俺は首を横に振る。 . 前へ |次へ |
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