《MUMEI》 きれいな庭と昔話. 響子は床に敷いた麻のラグの上に腰を下ろし、そこから俺を見上げ、 微笑みを浮かべる。 その柔和な表情に、思わず心臓が高鳴った。 彼女は、そのまま表情を変えず、続ける。 「拓哉がね、お友達を家に呼んだの、あなたが初めてなの」 俺は、心臓の音を無視しながら、平静を装って、そうなんですか、と極力フツーに答える。 響子は深く頷き、言った。 「あの子、愛想がないでしょう?無駄にツンケンするものだから、昔から仲の良いひとがいなくてね…こっちに引っ越してきた時が一番酷くて、わたしとも、まともに口をきいてくれなかった」 彼女は視線を巡らせ、居間の窓の外を見つめた。俺はその視線を追う。 窓の外にはすぐ木製のテラスがあり、その先にはあの幻想的な庭が、広がっていた。 俺が再び響子を見ると、彼女はまだ、自分の庭を見つめていた。 遠くを眺めるような目をして、無理もないわね、と彼女はぼやく。 「親の都合に振り回されて、住む場所も、名字まで変わってしまって、嫌われてもしかたないわ」 そう言い切ってから、俺の顔を見上げる。 その瞳は、涙で潤んでいた。 . 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |