《MUMEI》 . 彼女は、震える声で、小さく、呟いた。 「タケル君には、感謝してるのよ。あなたのおかげで、拓哉は変わった…」 ズッ…と鼻をすすり、悲しく笑う。 「あの子、夢があるのですって。この街で、出会ったひと達から貰った夢なんだって。そんな話、わたしに今までしてくれたこと、なかったから…」 そこで言葉を詰まらせた。 彼女は顔を俯かせ、細い肩を、小刻みに震わせていた。 今にも壊れそうな、 その繊細な彼女の身体に、 触れたい、と、 俺の中で、誰かが暴れ出す。 その烈しい衝動を、理性で必死に抑えながら、 俺は、呟いた。 「俺も、同じですよ」 小さく呟いた声に、 響子は、え?と声を出し、顔をあげた。涙に濡れた顔を、無防備にさらして。 俺は込み上げる感情を、グッと堪えながら、 微笑んだ。 「拓哉がいなかったら、今、俺はこうして笑っていられなかった」 −−−ヒロトさんが死んで、 俺は目標を、無くした。目指すべき方角を示す、指針を失った。 今までの、眩しかった日々が、 一気に色をなくして、 空虚なものに、変わった。 . 前へ |次へ |
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