《MUMEI》

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遅い時間にお邪魔しました、と早口でまくし立て、

颯爽と居間から立ち去ろうとした俺に、


「…タケル君」


響子が、呼び止めた。

彼女の柔らかな声に、俺の身体は、痙攣したように、大きく一度、ビクリと揺れた。

高鳴る鼓動を必死になだめながら、
恐る恐る振り返ると、


そこで、響子は優しく微笑んでいた。


泣き腫らした赤い目を、柔らかく細めながら、

俺に、言う。


「話、付き合ってくれて、ありがとう」


−−−また、遊びに来て……。


彼女の言葉に、

俺は唇の端をつりあげて、笑ってみせた。

そうして、そのまま拓哉の家を飛び出して、

真っ暗な闇の中を、全力で駆け抜けていった……。





******





俺は、ひたすら走った。


−−−何かを追い求めるように、

−−−何かから逃げ回るように、


響子を強く求めながら、

その貪欲な欲望から逃げていた。


これは、こんな気持ちは、


何かの間違いだ。

間違いだ。間違いだ。間違いだ……。


頭の中で、

そう、唱えれば、唱えるだけ、

その気持ちに捕らえられ、


俺は


身動きが取れなくなっていく−−−。





******

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