《MUMEI》 . 自分の席に座ると、若菜がおかえり!と笑顔を見せてから、俺の顔を覗き込んだ。 「何かあったの?」 電話のことを言っているのだろう。俺は曖昧に笑いながら、ちょっとね…と言葉を濁した。 すると、俺が戻ってきたことに気づいた男達が、いきなり、言った。 「はい!矢代、王様の下僕ね!」 ……は?? 本当にいきなりなので、話が読めない。 俺が眉をひそめていると、男達はニヤニヤしながら続けた。 「みんなをほったらかして、電話しに行ったバツでーす!」 「空気の読めない矢代には、無条件で王様の命令をきいてもらいまーす!」 その台詞の後、女達が、わーー!!と嬉しそうに歓声をあげた。 盛り上がる仲間の中で、若菜だけがこの話の展開に戸惑っていたようだった。時折、心配そうに俺の方を、チラチラ見遣るのが分かる。 やけにはしゃぐみんなの声を聞きながら、 俺はひそかに舌打ちした。 冗談じゃない。 「なんで、俺が…」 「『こんな馬鹿げたことに、付き合わなきゃならないんだ』って、思っただろ?」 言いかけたのを、遮られる。しかも図星だった。 . 前へ |次へ |
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