《MUMEI》

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俺は後を追ってくる彼女から目を逸らし、正面を向き直った。また、矢代君!と若菜が呼ぶ。だが、俺は答えなかった。

昌美は、まだ電話に出ない。
運転しているのだろう。

一旦、電話を切ろうとした時、車のクラクションが軽快に鳴り響いた。俺はそちらへ目を遣る。

白いポルシェが、ひそやかに俺の傍へ滑り込んできた。

運転席に、顔を半分くらい隠すような、大きいサングラスをかけた、オンナの姿が見える。


間違いなく、昌美だった。


俺は、躊躇うことなく車の助手席のドアを大きく開けた。
昌美は俺の顔を見上げ、ゆったりと微笑む。


「…早かったのね?」


そんなに退屈だったの?と、声をかける彼女を無視し、車に乗り込もうとすると、

若菜が、呼んだ。


「待って!矢代君!!」


俺は、再び振り返った。

若菜は俺が動きを止めたことに安堵したのか、その場で足を止める。

彼女は肩を上下させながら、俺と車の中に控えている昌美を交互に見つめていた。

俺と、突然現れた昌美の関係を、じっと推し量るような目で。


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