《MUMEI》 . 俺は、顔から手を離し、昌美の寝顔を見つめた。 彼女は一向に起きる気配もなく、ただ軽やかな寝息を立て、すぐ傍で寝そべっていた。 その柔らかな白い肌の上には、夕べの烈しさを物語る、赤い痕が、点々と残っていた。 昌美を見ながら、俺は、 ………行かなくちゃ。 不意に思い立ち、床に散らかった服を着て、音を立てず、部屋から出て行った。 ****** −−−昼過ぎ。 俺は一旦自宅に戻って休んでから、ひとりで街に繰り出していた。 土曜日ということもあり、混んでいるかと思ったが、予想に反して人はまばらだった。 俺は人通りの少ない道を、まっすぐ歩いていく。ブラブラと、気ままな様子で。でも、目的はきちんとあった。 少し寂れた、昔ながらの商店街を進むと、ある一角に、それはあった。 小さな、小さな、花屋。 店の前には、商品と思われる色とりどりの花を活けたバケツが、幾つも並べられている。 少し離れた場所から、電柱に隠れるようにして、俺は花屋の様子を伺った。 店はヒマそうで、お客はいなかった。 何人かが、その店の前を通り過ぎていくが、懸命に咲いている花がそこにあることなど、誰も気づいていないようだった。 . 前へ |次へ |
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