《MUMEI》 . 彼女はキョトンとしていたが、そのうちいつものように、柔らかい笑顔を浮かべて、今日は学校休みなの?と尋ねてから、思い付いたように言った。 「そっか、今日は土曜日だったわね!すっかり忘れてたわ」 その軽やかな声に、俺は自然とほほ笑む。 彼女は照れたように笑う。 「この間は、ごめんなさい。みっともないところ、見せちゃって」 「いえ、別に…」 「あれから、拓哉とお話出来た?」 「実は、まだで…」 しどろもどろに答える俺をまっすぐ見つめて、 彼女は母親のように、優しく続ける。 「拓哉は確か、バイトだった筈よ。夕方から出勤みたいだから、まだ家で寝てるんじゃない?」 さも当然のように、拓哉の話をする彼女。 当たり前だ。 俺は、彼女の息子の親友で、 ただ、それだけの存在……。 この先、どんなに彼女と親交を深めようと、努力したって、 その関係性は、変わらないのだ。 −−−きっと、ずっと。 そう思うと、胸が苦しくなった。悲しい気持ちが込み上げてきた。 彼女は、知らない。 俺が、彼女のことをオカズにして、他の女を抱いているなんて。 響子の汚れのない、清らかな微笑みを見つめていると、 自分が、どうしようもなく惨めで、醜い人間に思えて仕方なかった。 . 前へ |次へ |
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