《MUMEI》
回想
優里は、デスクでレイアウトをチェックしていた。どこかぼんやりしている。
そのため、寛喜がじっと見ているのに、優里は気づいていない様子だ。
たまりかねた寛喜の向かいの女子社員が、寛喜の前にメモ用紙を一枚投げた。
寛喜が見る。
『いい加減にしなさい』
寛喜は女子社員を見た。こちらを睨んでいる。ジョークでもジェラシーでもない。寛喜の不真面目な勤務姿勢に怒っていた。
寛喜は仕方なくデスクに向かい、仕事をした。
(優里チャン。何か色っぽい)

優里は真っすぐ帰宅した。食事を済ませ、シャワーを浴びる。
裸になれば、やはりあの夜のことが思い出される。
次に何をされるかわからないから怖いのだ。怖いけどスリル満点だった。
またあの店に行きたいと思わないのは、虜にはされていない証拠だと、優里は強引に解釈した。
ハラハラドキドキしたい。冒険気分を味わいたい。
まだ欲望は消えていない。優里は自分に呆れながらも、新しい一面を見るようで、口もとに笑みも浮かぶ。
彼女は脱衣所に出て、髪と体を拭くと、体にバスタオルを巻いた。
そのままベッドに仰向けに寝る。
またマッサージ店の回想シーンが頭に浮かんでいた。
もしもあれが店ではなかったら、どうだったか。水着姿で手足を縛られ、無抵抗の状態で男十人に囲まれたら。
「嘘…怖過ぎ」
優里は笑った。そんなことは絶対にあってはいけない。気をつけなければいけない。そうなってしまったらアウトだから、そうならないように気をつけるしかない。
プレイするなら彼氏と。でも、彼氏という存在は、ある意味怖くない。裸を見られたくない相手だから。触らせたくない相手だから。スリル満点なのだ。
「何考えてんのあたし?」
優里はうつ伏せになり、枕を強く抱いた。
やっぱり虜にされたから、こういうことばかり浮かんで来るのか。
優里は、想像するくらい悪いことではないと、思考を抑えるのをやめた。
また違う店なら、スリリングかもしれない。期待外れになる可能性もあるが、あの店以上にリスキーな店があるかもしれない。
そういうのを調べるのは、やはりネットだろう。
彼女はパソコンを見た。ただウイルスが怖い。変なところをクリックして怪しいサイトと繋がるのは危険だ。
「明日、ネットカフェ行こうかな…」
彼らのような甘いマスクの爽やかボーイもいいが、荒々しい男もエキサイティングだ。
いちばん悔しいのは、寛喜みたいな年下の生意気な男に意地悪されることか。
優里は寛喜を思い浮かべ、慌てて映像を消した。
「ないないない、冗談じゃない」
優里は起き上がると、バスタオルを取り、パジャマを着た。

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