《MUMEI》 . 突然、すみませんでした…と、力無く呟き、立ち去ろうと背中を向けた俺に、 響子は声をかけた。 「なにか、あったの?」 驚いて振り返ると、そこには心配そうな顔をした彼女がいた。 彼女は寂しそうに笑いながら、続ける。 「今日、元気ないわね…」 嫌なことでもあった?と、小さな子供に尋ねるような口調で言う。 堪らなかった。 まるで、子供扱いされることに。彼女と対等の立場で話が出来ないことに。 苛立ちすら覚えて、 俺は、つい、素っ気なく答えた。 「別に、普段通りですよ」 冷たい声に、響子は少し戸惑ったようで、曖昧に笑ってみせた。 その頼りない笑顔を目に焼き付けてから、俺は踵を返して、早足で歩き出した。 −−−別れた途端から、後悔していた。 なぜ、冷たい態度を取ってしまったのか。 なぜ、もっと上手く話が出来なかったのか。 そんなやりきれない想いで胸がいっぱいになりながら、 俺は、一度も振り返らず、まっすぐ歩いた。 ****** 前へ |次へ |
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