《MUMEI》 . 端正な姉の顔を見つめ返して、俺は続ける。 「家に来るなんて。最近、全然顔出さなかったのに」 別に厭味のつもりじゃなかったのだが、彼女はそう受け取ったようで、顔をしかめた。 「なに?実家に帰ったら、いけないの?」 怒った姉の口調に、俺は思わず萎縮して、そんなことないけどさ…と曖昧に言葉を濁した。彼女は、深いため息をつき、言った。 「何となく、気が向いたの。それだけよ」 文句ある?と尋ねられて、俺は慌てて首を横に振った。 彼女は俺の様子を見、またため息をつくと、再び母さんに向き直って、俺を見ようとしなかった。 《話は終わり》 それが、彼女のいつものサインだった。 俺は居場所がなかったので、とりあえず、隣接するダイニングに移動しようと歩き出したとき、 ふと、リビングのテーブルに目を遣ると、 その上に、たくさんの香水瓶が、所狭しと並べられていた。 姉が楽しそうに母さんに、その香水の説明をしているところを見ると、 おそらくは、彼女が母さんにプレゼントするために、店からテスターを持ち帰って来たのだろう。前にも、そういったことが、何度かあったから。 . 前へ |次へ |
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