《MUMEI》
突然…
.

不思議に思いながら、わたしが、なに?と尋ねると、彼女はほほ笑んだまま、答えた。


「具合、悪そうね?」



…………は??



わたしはいたって健康で、今日だって特に具合が悪かったことなんか、一度もなかった。

いきなりそんなことを言い出した、彼女の真意がわからない……。

戸惑いながら、そんなことないよ、と答えたのだが、小田桐さんは聞く耳を持たず、



「よく見たら、顔色も悪いし」



そう、続けた。
彼女がなにを考えているのかさっぱり読めなくて、恐怖したわたしは、無言で必死に首を振る。さすがに、隣の巴も不思議そうな顔をしていた。

それでも小田桐さんは引かなかった。

ズイッと顔をわたしに近づけて、あらあら…と驚いたような声をあげる。


「目も充血してるわね」


「ね、寝不足なんだよね」


「肌荒れも」


「昨日、寝る前にチョコレート食べちゃったから」


「髪の毛も、ツヤがないわよ」


「この前からシャンプー変えて」


小田桐さんが言ったことに、いちいち答えていた。沈黙したら、負けだ、と思った。だから、なんでもいいから、口を開いた。

すると、彼女は困惑するわたしの耳元で、囁いた。



「ソウが待ってる…」



……………え?



わたしは顔をパッと輝かせ、小田桐さんを見上げると、


「ソウさんがッ!?」


と、声をあげた。

それを、すかさず小田桐さんが、わたしの口を両手で覆い、言葉を遮った。

隣の巴が、敏感に反応して、眉をつりあげる。


「今、ソウって言った??」


小田桐さんは巴の質問を無視して、わたしにほほ笑みかける。


「やっぱり、具合悪かったんだね〜!こりゃ、保健室行った方がいいかもね〜!!」


早口でまくし立てると、彼女はわたしの腕をつかんだかと思ったら、目にも留まらぬ速さで教室から出て行った。


遠くから、巴の呼ぶ声が、聞こえた…。





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