《MUMEI》
水着
優里はネットカフェにいた。
個室にこもり、あちこちのサイトを覗いていた。
人にはだれにも相談できない悩みというものがある。その一つがやはり性の悩みだろう。
「18禁」という言葉があるように、性の話はタブー視される。本当は大事なまじめな問題なのだが、嫌らしく取られてしまう。
真正M。ドM。決して変態ではない。しかし世間でSMといったら変態プレイと見られる。
最近は「あの子絶対Sだよ」「あたしMだから」とテレビでも日常に使われているから、少しは変わってきたが…。
ただ、実際にSMプレイを体験した人となると、経験豊かな人でもそういないかもしれない。
優里はいろんなサイトを見て回りながら、そんなことを考えていた。
「ふう…」
優里は思った。自分は体験が乏しい割には、SMプレイをしてしまった。
あれはお世辞にもマッサージではない。拷問エステのSMプレイだ。だが、悲鳴でも上げて拒否すれば、彼らもやめただろう。つまり、同意のもとなのだ。
「手足を縛られていたから、どうすることもできなかった」と女が言い訳できるのが拘束プレイの利点。
優里は首を振った。
「ああ、あたし完全におかしい…」
何が利点だ。いきなり上級者か。自分で突っ込むしかない。
あちこち検索しているうちに、あるイベント名が目に止まった。
(くすぐり我慢大会?)
クリックしてみる。
明るい雰囲気のサイトで、海水浴場のスナップ写真が掲載されていた。
若い男女が水着姿ではしゃいでいる。よく文章を読んでみると、「第11回くすぐり我慢大会」の模様らしい。
くすぐられるのは水着の女性。くすぐるのは男性。
1分耐えたら1万円。2分我慢したら2万円。3分で3万円の賞金がもらえる。
前回大会の優勝者は7分我慢して7万円をゲット。王冠をかぶってトロフィーを持つ笑顔の水着ギャル。
写真を見ても運動会のような感じで、詐欺ではなさそうだ。
ルールは簡単。女性は水着。バンザイの形で鉄棒に両手首を拘束され、男性が前から脇の下を、後ろから脇腹をくすぐる…。
優里は写真付きのルール説明を見ながら、自分がされている想像をしてしまった。
唇を噛む。何だか妙な気分になってきてしまった。
(あたし、もしかして重症?)
女性が降参したらゲームオーバー。息ができず、笑い過ぎて降参と口で言えなくても、腕を振れば鈴が鳴り、それがギブアップの合図。男性は即座にやめる。
優里は首を軽く回した。後ろを振り向き、個室のドアが閉まっているかを確認した。
皆楽しそうだ。ただ、野外は恥ずかしい。でも室内のほうが危険だ。海水浴場ならそんな悪どいことはできない。
(バカバカバカ。参加するわけないじゃん)
優里は自分に言い聞かせた。
水着で両手首を拘束される。これは危険が大きい。マッサージ店なら、どんなエッチな意地悪をされようが、絶対にレイプされる心配はない。
しかしネットを信用して詐欺に遭う人は後を絶たない。この大会がインチキで、男たちに変なことをされても、だれも同情してくれそうもない。
(でも…)
怖いからスリル満点なのだ。危険だからハラハラドキドキ興奮できる。
優里は迷った。女性の参加費は無料。食事やドリンクも用意されている。
事務局の住所と電話番号まで書いてある。
(じゃあインチキじゃないか)
優里は電話番号をメモした。
(メモしてどうすんの?)
理性との戦いだ。優里はパソコンを再起動に戻して、部屋を出た。

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