《MUMEI》
嫉妬
ムッとする優里に、司会者の男は、笑って誤魔化す。
「ゴメン、優里チャン。怒らないで」
「怒りますよ。どれだけ怖かったと思ってるんですか?」
「許して。毎回一人、ドッキリのターゲットになるんですよ。初参加の中から選んでね。でも賞金は出るから」
優里は呆れたが、本当よりはドッキリのほうがはるかにいい。
「ほどいてください」
「怒ってない?」
「怒ってません」
ようやく解放された。
図らずも、危険なスリルを味わえてしまった。
(怖かったあ…)
昼はカレーライスが出た。ドリンクも飲み放題だ。
テントの中や外にテーブルを出して、皆水着のままカレーライスを食べた。談笑に花が咲く。
優里がすわると、サッと男たちが来た。
「隣いい?」
軽そうな茶髪の男がカレーライスを持ちながら聞いた。
「あ、どうぞ」
「俺、柴田」
「はあ…」
前にも横にも来て数人の若い男に囲まれた。ほかの女子たちはムッとする。
仕事一筋だった優里は、そういうことには無頓着というか疎いので、女たちのギラギラした視線に全く気づいていなかった。
「優里チャン、さっき怖かったでしょう?」柴田が聞いた。
「怖かったですよう。どうしようかと思った」
「ビビってたね。かわいかったよ」ほかの男が笑う。
「何でだれも助けてくれないのかと思って」優里は口を尖らせた。
「おかしいと思わなかった?」
「や、そんな薄情な感じだから、あたしがあのまま連れ去られても、だれも助けてくれないかもと思って、本当に怖かった」
恐怖を思い出しておなかに手を当てる優里。皆は彼女の顔や体を無遠慮に見た。
「優里チャン、このあと時間ある?」
「俺たちとどっか行かね?」
「ごめんなさい。真っすぐ帰ります」
「彼氏いるの?」
「いますよ」即答した。
「だよなあ」
皆は落胆した。優里は、その気がない男性には彼氏がいると答えることにしている。
フリーと言うと口説かれる心配があるからだ。彼氏がいると言えば、たいがい引く。
しかし、柴田のようなプレイボーイは別だった。彼氏がいようが夫がいようが関係ない。
目的は体。恋愛感情ではない。
「優里チャンてさあ、美人だよね」
「何言ってるんですか」
柴田のストレートに優里は照れた。
「スタイルも抜群だし、性格いいし」
「性格はわからないじゃないですか」優里が笑みを浮かべる。
「美人ってたいがい性格いいよね」
「何それ?」優里は思わず笑ってしまう。
「それなりにかわいい女の子って結構いるけどさあ。優里チャンは美人でかわいいもんね」
「何も出ませんよ」
食事も終わり、流れ解散の雰囲気。優里がテントに行こうとすると、柴田が素早く来て、言った。
「じゃ優里チャンまたね」
「はい」
柴田は優里の手にメモを握らせると、足早に去っていった。
メモを見る。メールアドレスだ。
『メールください。一生のお願い!』
優里は真顔で唇を結ぶ。メモを握りながら伸びをした。
「あああ、モテる女は辛い」
正直タイプではない。軽そうだし、優里にその気はなかった。
優里はテントに入り、ロッカーを開けようとすると、険しい表情の女子6人に囲まれた。
「え?」
「ねえ、その手に握ってるもん見して」
「あっ…と」
優里は目を見開いた。状況が掴めない。彼女たちは何をいきり立っているのか。
「見してみろよ」強引に奪う。
「あああ、柴田さんのメルアド!」
「テメー」
「え?」優里は震えた。「何ですか?」
「抜け駆けかよ?」
「やっちゃう?」
「やっちゃおうか、こいつ」
ドッキリ…いや違う。これは本気だ。優里は泣きそうな顔で両手を出した。
「ちょっと待ってください」
「柴田さんはねえ、アタシたちのもんなんだよ。新顔は引っ込んでろよ」
ようやく把握できた。優里は頭に来た。暴力は怖いが、このまま引くのも悔しい。
(なんなのこいつら?)
優里は睨み返した。

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