《MUMEI》 暴力「何だよその目は?」 睨み合い。6対1なのに強気に出られると、多人数のほうが怯む。 優里は係長の感覚で言った。 「あなたたち。言いたいことがあるなら、ちゃんと話しなさいよ!」 「何テメー!」 掴みかかる金髪を太めの女が止めた。 「待て待て待て」 優里は身構えた。一瞬も油断はできない。 「あんたも蒸し返すなよ」 「はあ!」優里も身勝手な言い分に相当頭に来ていた。 「この子マジ柴田さんのこと好きなんだよ。譲ってやってくんねえ?」 優里は激しい誤解に罵倒したかったが、やはり暴力は怖い。喧嘩などしたことがないのだ。刺激するのは危険だと思い、グッと抑えた。 「譲るも何も、あたしの彼氏じゃないし」 「さっきイチャついてただろ!」金髪は涙目で激怒している。 「そんなんじゃないわよ」 「余裕かましてんじゃねえよ!」とキック。 「あっ…」 脚を蹴られた。凄く痛い。優里は焦った。怪我でもさせられたらつまらない。 「落ち着けって。この子がメルアド渡されたってことはさあ、彼女じゃないってことだろう」 「でも気に入らない。何でアタシじゃなくてこいつなの?」 やや白けたほかの女が、優里にメモをかざした。 「じゃあ、このメルアド、こっちが預かっていいんだな?」 おそらく年下だろう。なぜそんな偉そうに言われなければならないのか。 優里は素直に頷けなかった。 「あんたさあ。もう来ないでくれるかなあ?」 「だからあ」優里は強気に言った。「それを決めるのはあたしだから」 金髪が皆を振りきって前に出た。 「よーし。じゃあサシで勝負して決めようぜ」 「何でそうなるの?」優里は慌てた。 「あたしらが丸く収めようと思ってんのに、あんたが突っ張るからいけないんだぞ」 そう言うと、皆は金髪から離れた。冗談ではない。 「あんた喧嘩できんの。この子強いよ」 「喧嘩なんかしません」 優里は身の危険を感じ、助けを求めようとした。女子更衣室には男が入って来ない。外に出なければ。 優里が逃げると、金髪がすぐ腕を掴みボディブロー。 「あう…」 尻餅をつく優里に容赦なくボディブロー連打。 「わかった、やめて、わかったから」 「わかったかよ?」金髪は興奮している。「じゃあ、謝れよ」 謝るのは違うと思ったが、黙っているとまたボディブロー。 「ごめんなさい、ごめんなさい」 悔しいなんてものではない。なぜこんな理不尽な目に遭うのか理解できなかった。 「チクんなよ」 女たちはテントを出た。 「いっつ…」 優里はおなかを押さえて立ち上がった。暴力は卑怯だ。心底思った。 「悔しい…」 言われなくても二度と来ない。優里は唇を噛み締めた。ひどい目に遭った。 前へ |次へ |
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