《MUMEI》
心配ごと
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「…よかったの?」


昇降口で、ローファーに履き変えている義仲に、尋ねた。


義仲は、あ?と声をあげ、わたしを見上げる。


「なにが?」


なんでもないような口調で言った彼に、わたしは、なにがって…と言いよどむ。


「…あんな言い方して、春蘭さん、怒ったんじゃないの?」



今回、春蘭さんが来日した目的は、親同士が決めた、義仲との婚約話を進めるためだと、川崎先生が言っていた。


この話に、天下の大やくざ『桜鷲会』会長である、義仲のお父さんが俄然乗り気で、


もし、邪魔をしたら、さすがの先生でもフォローしきれない、とも…。


それに、


さっきの春蘭さんの表情……。


間違いなく、怒っていた。


それが、義仲に対するものなのか、それともわたしに対するものなのか。


いずれにせよ、

彼女は、香港マフィアの娘。


このことが、向こうの親の耳に入れば、とんでもない騒ぎになるのは、手に取るようにわかる。



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