《MUMEI》

「よかったな長沢」


誠は奮える声で言った。

「……」

捨てられた仔犬の表情で長沢は佐伯をじっと見ている。


「毎年聖は兄貴に似顔絵描いてたんだよな、あ、兄貴にも描いたのか?」

「あー今年はね…、貢だけ…」

佐伯はホンワリと頬を赤らめ俯いた。

「このお!色男!」
誠は絵をじっと見つめる長沢の肩をぽんぽん叩いてから首に腕を回し、耳元に顔を近付けた。


「羨ましいよ長沢、そりゃ〜金じゃ決して買えない愛のこもった最高のプレゼントだぞ?
佐伯の兄貴は毎年これ貰っちゃー泣いて喜んでラミネートコーティングして取っといていて…、なあ聖!」

「あーもう恥ずかしいって!」

佐伯はそう言うと立ち上がりキッチンへと消えて行った。





「これ俺はどうすればいーんだ…」

小声で長沢は俺達に尋ねる。

「ヒヒヒ…だからラミネートコーティングだって」
誠はそう言いながら俺の隣に移動し、煙草に火をつけた。

「誠マジで?マジで陸さんそんな事してんの?」

「へへ、マジ!ほら佐伯一家は基本的に相当な金持ちじゃんか、だから金で買える欲しいモノは普段から湯水の如く手に入るからー、だからこんな自作のモノが一番有り難いモノだっつー考え方なんだよ。だからさ、俺も誕生日のたんびに聖から……ヒヒヒ、折り紙の鶴の時はさすがに堪えらんなくて笑っちまったっけ…、はーこれから先このまま聖と付き合うんなら長沢はクリスマスの度に似顔絵を…ヒヒヒ…」


長沢は、はあ〜…とため息をつき、俯き、静かに言った。

「…湯水の使い方が違うような…、…で…、ちなみにその鶴は何年前に貰ったんだ?」




「あー…、…、8ヶ月前」


「ぷっ!最近!」

「笑ってるとこじゃねーぞ真依も…



真依も人の子なら誕生日があるだろ、聖から絶対手作りの何かがある」

「…え〜…」


いらない…



ガチャ!

「なんの話で盛り上がってんだ〜?」

大皿片手に佐伯が笑顔で戻ってきた。
そしてそれをテーブルに置くと佐伯は長沢の隣に座った。








「貢ありがとう」

「いや…、うん…」

俺らがいなかったらきっとイチャコラしたい丸出しで、佐伯は長沢をうっとりと見つめている。

佐伯の首には長沢からのクリスマスプレゼント、プラチナのネックレスが光っている。


下着一枚にしたって何気に何千円なお坊ちゃま、佐伯聖には確かに変なモノは贈れないだろう。

あれ絶対ン万円するよ、相当頑張ったな、俺らと同じ庶民、長沢貢。



あんなん買ったからいきなり旅行連れてけって言われても予算なかったんだろう。だけど予算ないなんて言えなかったんだろう…。


ああ、俺、あんまり長沢好きじゃなかったけど、なんか好感もっちゃったかもしんない。

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