《MUMEI》
・・・・
 絶対の味方である契約者エリザもこの状況では援護しようにも出来ないでいた。周りは炎一色。すなわち水系統の魔法では太刀打ち不可能と言うこと。希少な才を持つエリザであろうとこの世界を埋め尽くす猛火を超える魔法を持ち合わせていない。
 「消し炭も残しはしない。これを使わせた自分自身を呪え」
 ゆらゆらと蠢き、漆黒の炎が巨体を取り囲む。
 怨恨の炎の発する熱にやられ、怪物の頑丈な甲は溶けはじめた。炎熱に耐性のないアーヴァンクは焦熱に苦しめられ不様にのた打ち回る。
 喉も焼かれ、声を上げようとしてみても息が漏れるだけ。痛みを訴えることも、恨みを口にすることもできない。
 「―――。」
 あまりにも哀れな姿へとなり果て、弱々しくなっていた。熱さに苦しむことも出来ず、全身の水分を吸い取られたかの様に縮みこみ、息も満足にいかない。
 人間より秀でた存在であるはずの幻獣が不様に地に這いつくばり頭を垂れている。どんな思いを抱いているのだろうか。
 苦しみか。それとも怒りか。
 どちらにせよ、それを与えている張本人をもう目にすることもできない。
 「情けない姿だな。幻獣ともあろうものがたかが人間一匹に殺られるとは・・・それでよくあれだけ語れたものだ。
 見苦しい、消えろ」
 彼の暗い心が、幻獣アーヴァンクを呑み込む。アーヴァンクの肉体は焼き尽くされ、その意志も、望みも、姿さえも世界から抹消された。

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