《MUMEI》 告白きょうも名倉寛喜は、優里のことをチラチラと見ていた。 「ふう」 優里はゆっくりと寛喜の席に行くと、厳しい顔で睨んだ。 「名倉君。ちょっと来なさい」 「え?」寛喜は焦った。額に汗が滲む。 相談室に入ると、二人は向かい合ってすわった。 「いい加減にしてくれる?」 「何がですか?」 「あたしが気づいていないとでも思っているの?」 「だから何がですか?」 とぼける寛喜。優里は呆れた顔をすると、ハッキリ言った。 「仕事もろくにできないくせに、何ずっとあたしの顔を見ているの?」 言葉がきつい。寛喜はムッとすると、開き直った。 「係長が、魅力的過ぎるのがいけないんですよ」 「ふざけないで」 「ふざけてなんかいません。聞かれたから正直に答えたんです。ほかに理由はありません」 よくも面と向かってそういうことが言える。優里は首を左右に振ると、冷たい表情で寛喜を見すえた。 「ならば、部署を変えてもらいましょう」 寛喜は慌てた。 「待ってください。それだけは許してください。まじめにやりますから」 「いいえ。変えてもらいます」 「そんなことしたら、許しません」 「あら、あたしを脅すの?」 寛喜は真顔でいきなり聞く。 「係長は、彼氏いますか?」 「答える必要はないわ」優里は冷たい目を向けた。 「いないんですか。最近やけに色っぽくなったから、できたのかと思って」 ドキッとした。見た目で変化がわかるのだろうか。優里は恥ずかしい部分を見透かされたようで、やや弱気になった。 「わかったわ。反省してるならもういいわ」 「反省なんかしていません。僕の質問に答えてください」 「プライベートなことを答える義務はありません」 「じゃあ、僕とつき合ってください」 「はっ!」 驚く優里に、寛喜は赤い顔で言った。 「優里さん。本気で好きです」 何を血迷えば職場でそういうことが言えるのか。優里は怒った。 「聞かなかったことにするわ。社長か部長が知ったら、あなたの首が飛ぶわよ」 しかし寛喜は食い下がる。 「本来ならば食事に誘って言うことでしょうけど、食事に誘っても絶対断るでしょう?」 「でもね名倉君…」 「答えてください優里さん。ふられたら死ぬほど辛いから黙ってた。でも、聞かれたから告白したんです。どうしようなく好きなんです」 「お断りします」 「え?」 あっさり言われて、寛喜は怯んだ。 「全く脈なしですか?」 「そうですね。あなたとつき合う気は全くないわ」 「僕のどこがダメでしょうか?」 「全部よ」 一撃。寛喜は目が泳いだまま硬直した。優里は立てそうにない寛喜を置いて、部屋を出た。 前へ |次へ |
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