《MUMEI》
明日の約束
「梨央…か。いい名前じゃん」

「あ、ありが…と」

「そんじゃ、梨央。俺、もう戻るわ」

「え…?あ、あのさ、もうちょい……」







梨央は、久々の話し相手である悠一を引き留めようとしたが、言葉に詰まった。

所詮、それは自分の我が儘でしかないと思い直したのだ。







「…やっぱり、いいや。何でもない」

「……梨央、お前さ、何時なら空いてる?」

「は?」

「だから、お前は何時なら暇なんだって聞いてんだよ。お嬢様っつったら、ピアノの稽古とかあんじゃねぇの?」







何故そんなことを聞くのか意味が分からないと首を傾げていると'早く答えろ'と催促された。






「えーっと、夜ならだいたいは空いてる。10時くらいとか」

「よし。んじゃ、明日の10時半な」

「ち、ちょっと、さっきから何なのさ?意味分かんないんだけど!」

「分かんねぇってお前、会いに来てやるってことだよ!!」

「はぁ!?だ、駄目だよ!!ここは、本館の者はお兄様の許可なく入れないんだ!見付かったら、その場でクビだよ!」

「そんなの知るか」







こっちは真剣に、見付かればクビだと言っているのに、当の本人は、まったく気にしちゃいない。

このままだと、本当にこいつは明日ここに来てしまう…。







「絶対駄目だからね!」

「はぁ、分かったよ。じゃあ、屋敷内には入んないで、ここから話すだけにするからさ。それでいいだろ?」

「分かってないなぁ!!僕と会うこと自体がいけないの!分かった!?」

「あー、分かった分かった。絶対屋敷内には入んないし、見付かんねぇようにする」

「分かってねぇじゃん!!!」

「うっせーなぁ。大丈夫だよ」

「だ・め・な・の!」

「大丈夫だって言ってんだろ?それとも何?梨央は、俺に会いたくないとか?」

「そ、そうじゃないよ!」

「だったらいいだろ。はい、決まり。」

「何勝手に決めてんの!?」

「もういいだろ。ぐだぐだ言わねぇで、お前は明日ここで待ってろ。じゃあな」

「あっ、ちょっ!……行っちゃったし」







桜城 梨央、明日ここで待つこと





  決  定  で  す

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