《MUMEI》
・・・・
 貴重な逸材が二人、どちらかの命が散らなくてはならない。
 いまだ燃え盛る怨恨。それでも邪魔者を排除したため心なしか静まったようにも感じられる。戦いを急かす者もいなくなり、ようやく会話が出来る。
 身の丈ほどもある長剣を握る手を緩め、カイルは深く呼吸する。戦いの終わりはもうそこまできている、それもこのままいけば勝利という形で。
 それでも、カイルは躊躇っていた。固めたはずの決意が揺らぐ。
 自分自身にも人間らしい感情が残っていたことに気づかされ、溜め息を吐かずにはいられない。そのような感情はとうの昔に捨てたつもりでいた、いや事実この時まで捨てていただろう。あの日から今日まで、感情に絆されることなくただ利益だけを最優先に生きてきた。例え人の命が天秤にかけられようとそれが命令でない限り救うような真似はしない。
 それがどうだ。人の命も簡単に見捨てることのできるカイルが、騎士としての役目よりも自身の勝手な想いに流れようとしている。
 「不完全な具象世界しか持っていないお前にオレの具象世界を塗り潰すことはできない、お前の負けだ」
 彼女の意志を折るため、言葉が出る。だがエリザもそれで引き下がるわけもなく、口を開く。
 「どうして、わたくしのあれが具象世界だと。隠蔽は完璧だったはずです」
 「冷静に考える時間を与えてくれたお前のおかげだ」
 場を改める提案がなければ、カイルが彼女の具象世界に気づくことはなかっただろう。カイルが唯一騎士として認めるエドの敗北を見せられ、多少なりとも冷静さを欠いていたのだ。

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