《MUMEI》 断崖優里がベッドの上で仰向けになり、上体を起こす。セクシーな下着姿に、黒覆面たちは息を呑んだ。 伊刈はバインダーを優里に渡す。ボールペンと請求書が挟んであった。 見ると、金額が80万円になっている。 「ゼロが2つ多いんですけど」笑顔で聞く。 「妥当な金額だろ?」 優里は笑みを浮かべた。おそらくこれも芝居の続きだ。彼女は今度こそ勇敢なヒロインを演じたいと思った。 バインダーをベッドの上にポンと放る。 「こんなもんにサインできるわけないでしょ」 「ほう。いい度胸してるじゃないか。痛い目見ないとわからないタイプか?」 「そんな脅しにあたしがビビると思ってんの?」 優里は伊刈を睨む。再び黒覆面4人が彼女を押さえつけた。 「放せ、放せ!」 暴れる優里の股間に、伊刈はピストルを突きつける。しかし優里は強気に言い放った。 「どうせ偽物でしょ?」 「偽物?」伊刈が驚く。「本物だぞ。撃っていいか?」 優里は唇を結んだ。 「撃っていいのか?」 優里は急に笑顔になると、聞いた。 「伊刈さん、ごめんなさい。白けちゃうかもしれないけど、これってお芝居ですよね?」 「お遊びは終わりだ」 「またまたあ」 笑う優里に真顔の伊刈。 (お芝居に決まってる) 優里は強気な顔で伊刈を睨むと、言った。 「そんなおもちゃじゃ脅しに使えないわよ」 「そうだ。確かにこれはピストルではない。だが、おもちゃでもない」 伊刈の迫真のセリフ回しは、危険な香りさえ漂う。優里は背中に冷たいものを感じた。 「優里。これはスタンガンだ」 「え?」 スタンガンで撃たれた経験など、彼女はもちろんない。 「撃っていいか?」伊刈の目が危なく光る。 優里は、一度でいいから言ってみたいセリフがあった。実際には無理なので、こういう機会にしか言えない。 優里は男たちに手足を押さえられ、スタンガンを股に突きつけられている状況で、堂々と言った。 「撃てるものなら撃ってみろ!」 「そうか」 カチッ! 「ぎゃあああああ!」 激痛。衝撃。黒覆面たちが手を放したので、優里は両手で股を押さえながら両足をバタバタしながらのたうち回った。 「痛い、何で?」 伊刈の合図で黒覆面が動く。容赦なく優里の両手両足を押さえつける。 「やめて、やめて」 伊刈は冷酷な顔でスタンガンを股間に突きつける。 「もう一発行くぞ」 「待ってください!」怒鳴った。 「じゃあサインするか?」 優里は目を見開いた。 「伊刈さん、冗談ですよね?」 「冗談であんな痛い目に遭わすと思うか?」 唇がわなわなと震える優里。しかし信じたくない。 「どういう意味ですか?」 「いい加減に気づけ。おまえは騙されたんだよ」 優里は力が抜けた。 「あたし、伊刈さんのこと信じていたんですよ」 「悪いな。裏切って。でも罠にかかった獲物を逃がしはしないぞ」 伊刈が不気味に笑う。もはや悪徳商法であることは、疑う余地がなかった。 優里は蒼白になる。一気に身の危険を感じて、激しくもがいた。 下着姿なのだ。裸にされてしまう。 「伊刈さん。騙されたなら、もう騙されたで諦めますから、ひどいことはしないで」 伊刈は、泣きそうな顔の優里を見下ろすと、おなかを触った。 「やっ…」 「甘ったれか。それもかわいいな」 伊刈は再びスタンガンを股間に突きつけた。 「やめて、やめて」 「サインするか?」 「します、します」 「よし」 伊刈はスタンガンを放すと、バインダーを拾った。黒覆面も手を放す。 「サインしろ」 優里はバインダーを受け取ると、仕方なく請求書にサインした。 (絶対逃げ道はあるはず…) 優里は、諦めなかった。 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |