《MUMEI》
絶壁
伊刈の合図で、黒覆面たちは優里の手足を拘束した。
下着姿でベッドに大の字は怖過ぎる。
「伊刈さん、あたしをどうする気ですか?」
赤い顔の優里。伊刈は笑みを浮かべると、迫った。
「手足を縛られた状態を体験したかったんだろ?」
「や…」
「なかなかスリル満足だろ?」
「怖過ぎます」優里の息づかいが荒い。
「おまえが書いたシナリオだぞ」
優里は唇を噛むと横を向いた。伊刈がおなかに手を乗せる。優里は慌てて哀願した。
「やめて」
「安心しろ。裸にはしない」
「本当ですか?」
信じるしかない。裸にしないということは、レイプをしないということにもなる。
優里が緊張して構えていると、伊刈が意地悪く言った。
「そうだ。シナリオにくすぐりが書いてあったな」
「やめて」優里は伊刈を見つめながら首を左右に振った。
しかし黒覆面4人が優里を囲む。
「やめて。言うことは聞きますから」
「くすぐらるのが好きだからシナリオに書いたんだろ?」伊刈が笑顔で迫る。
「やめて、お願いですから」
「覚悟しろ。4人がかりはきついぞ」
「やめて…きゃははははは、やめはははははは、やはは、やはははははは…」
脇だけでなく足の裏もくすぐりまくる。優里は笑い顔から泣き顔になり、声が出せない。
(どうしよう…息できない)
そうだ。やめての合図。優里は必死にグーパーグーパーと手を開いたり閉じたりした。
やめてくれた。
「やあ、はあ、はあ、はあ」
呼吸を乱す優里に、伊刈が聞く。
「ちゃんと止めてあげたぞ。俺って優しいだろ?」
「優しいです」即答するしかなかった。
「いい子だ」
伊刈は髪を撫でた。ここは無理に逆らわないほうがいいと優里は思った。ヘタに刺激してひどいことをされたら意味がない。
「さてと。80万円を払ってもらおうか」
「払います。でも今は持っていません」
「そんなにくすぐりが好きか?」
「違います!」優里は身じろぎした。「80万円なんて持ち歩いているわけないでしょ」
「じゃあ、暗唱番号を教えろ」
「え?」
「嘘を教えてみろ。わかるな?」
優里は焦った。
「暗唱番号なんか聞き出しても、あたし、80万円も貯金していません」
「なら体で払ってもらおうか」
優里は蒼白になった。まさかそれが最初からの目的なのか。
「伊刈さん。それだけは許してください」
「心配すんな。本番なしの店だ。おまえから客にサービスすることもない。全くの受け身だ」
「受け身?」
「夜這いプレイの店だ。客の愛撫に悶えるだけでいい」
絶望的な話に、優里は気が遠くなった。
「ヤです」
「何?」
「ヤです!」
「泣いたってダメだぞ」
また黒覆面に囲まれてしまった。くすぐられたら降参するしかない。そうなる前に優里は言った。
「わかりました。やめてください」
「なら働くか?」
「…はい」
優里は観念したように目を閉じた。
(客を取らされる前に逃げなきゃ)
逃げて捕まったらアウトだ。どんな拷問が待っているかわからない。しかし夜這いプレイの店で働く気はなかった。
優里はもちろん内容を知らない。しかし見知らぬ男に裸を見られ、愛撫されるなど、とても耐えられない。
「伊刈さん。ほどいてください」
「いいだろう」
黒覆面が手足をほどいた。優里は伊刈と黒覆面たちにも頭を下げた。
「ありがとうございます」
伊刈は紺色のレインコートを持ってきた。
「近くのマンションの中が店だ。いわゆるマンヘルだ」
マンヘル。意味がわからない。優里はゆっくり立ち上がった。
「全裸の上にこれを着ろ」
優里はレインコートを受け取ると、聞いた。
「下着の上じゃダメなんですか?」
「ダメだ」
優里は赤い顔をすると、後ろを向いた。レインコートを着てから下着を取り、前を閉めた。裸が全く見れなかった黒覆面たちは残念がった。
「靴は履いていい」
「はい」
「行くぞ」

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