《MUMEI》
校内放送
.




−−−4限目が終わっても、義仲と春蘭さんは、教室にやって来なかった。



…………ふたりして、サボりかよ。



昼休みの賑わいの中、窓際の席で頬杖をつきながら、わたしはぼんやりそう思った。


そのとき。


−−−ピンポンパンポ〜ン♪


教室のスピーカーから、陽気な呼出し音が鳴り響いた。校内放送だ。

続いて、そこから流れ出た声は、


『2年D組、片倉 璃子。至急、保健室まで来るように』


繰り返す…と、同じ内容を放送している野太い男の声は、



…………ナベちゃん?



《ナベちゃん》とは、この蓬莱学園の保健医の渡辺先生。

ずんぐりむっくりな体型に、チリチリのアイパー、そして丸いレンズのサングラスをかけている、やくざのような見てくれの先生だ。

口調も乱暴だし、態度も素っ気ないけれど、意外と常識のある人だった。


放送を聞いた千影と昌平が、わたしのもとへ近寄ってくる。


「今の放送、なに?」


「なんかしたの?」


ふたりに続けざまに尋ねられて、わたしは首をひねった。


「…心当たり、ないけど」


そう呟いたわたしに、昌平は肩を竦める。


「呼出しくらうヤツは、みんな同じこと言うもんだよ」



…………どついてやろうか。



イラっとしたが、とりあえず保健室に行くほうが先決だ。激しく面倒だけれど。

わたしは椅子から立ち上がり、ちょっと行ってくる、と告げると、さっさと教室を出て行った。





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